レクチャー

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奥村久士 先生

「分子動力学シミュレーションの基礎」

分子動力学シミュレーションは物理学,化学,機械工学など広い分野で応用されています.また実験研究においても分子動力学シミュレーションの結果と比較することはよく行われています.

そこで今回の講義では分子動力学シミュレーションについて基礎から学びます.時間の都合で多少の変更があるかもしれませんが,以下のような内容を予定しています.この講義を聞いていただければ,自分で分子動力学シミュレーションのプログラムを書いて研究を始められるように計画してあります.

本講義で学んだ知識が皆様の研究の発展に少しでも役立てば幸いです.皆様の参加をお待ちしています.

第1章 解析力学

1.1 ラグランジュ形式

1.2 ハミルトン形式

第2章 統計力学

2.1 統計力学の原理

2.2 熱力学量の計算の仕方

第3章 分子動力学シミュレーションの基礎

第4章 時間発展

4.1 ベルレ法

4.2 ベルレ法によるエネルギーの誤差

4.3 ギアーの予測子・修正子法

第5章 速度スケーリング法による温度制御

第6章 拡張系の方法による温度・圧力制御

6.1 温度一定 拡張系の方法(能勢の方法)

6.2 圧力一定 拡張系の方法(アンダーセンの方法)

6.3 温度・圧力一定 拡張系の方法(能勢・アンダーセンの方法)

6.4 パリネロ・ラーマンの方法

横川大輔 先生

「分布関数を用いた熱力学量の計算」

分布関数という言葉を聞いたときに、どのようなものをイメージされるでしょうか?

動径分布関数やエネルギーのヒストグラムをイメージされた方はかなり分布関数通だと思います。 しかし多くの人にとっては、この分布関数は特にイメージするものがないほど影の薄い存在かもしれません。

それでは、この分布関数は重要ではない関数なのでしょうか。

私はそうではないと考えています。
なぜなら分布関数は豊富な情報を含んでいて、そこから様々な熱力学量を計算することができるからです。 これまで私はこの分布関数の特徴を利用した研究を進めてきました。

本講義では、この分布関数を利用した熱力学量計算について解説していきたいと思ってます。 そこでは、ただ式変形を追いかけるのではなく、私がなぜ分布関数に着目して研究してきたのかについても理解して頂けるように進めていきたいと考えています。

セミナー

古沢浩 先生

「クーロン相互作用系の自己組織化:タンパク質、微小泡を例に」

クーロン相互作用が有効に働く粒子系においては、ウィグナー結晶だけでなく、相互作用の長距離性に起因した様々な秩序構造が自己組織的に形成される。
(1)一つは、短距離引力と長距離斥力の競合に由来したミクロ相分離構造である。球状高分子におけるミクロクラスター(コロイド分子、あるいはコロイドミセルとも呼ばれる)や、ブロック共重合体のような線状高分子における多彩な秩序構造がその代表例である。
(2)もう一つのクーロン系固有の自己組織化は、異符号マクロイオン同士の強い引力に起因した電荷符号反転である。この現象のお陰で、ヒストンとDNAを構成要素とするクロマチンは、中和凝集せずに高次構造を形成する。

本セミナーでは、上述の2現象に関する、理論的背景、実験研究の現状、および我々による最近の成果を紹介する。(1)まず前者については、タンパク質系のミクロクラスター形成に着目し、従来知見を概観したのちに、カチオン性タンパク質の代表例であるヒストン系の最新成果を紹介する [1, 2]。(2)また後者については、ヒストン-DNA系、および新奇コロイドであるマイクロバブルの実験結果を紹介する [1, 3]。

この20年以上もの間、古典クーロン系に関する膨大な研究が行われてきた。しかし今なお、チャレンジングな理論的・実験的課題は山積している。そのことを、示したいと思う。

図:ヒストン超コロイド、およびスケールアップしたヌクレオソームの形成スキーム

[1] M. Inoue, S. Tanaka, and H. Frusawa, J. Phys.: Condens. Matter 23 (2011) 072206.
[2] http://iopscience.iop.org/0953-8984/labtalk-article/45275
[3] H. Frusawa and M. Inoue, Chem. Lett. 40 (2011) 372.

秋山良 先生

1:「水中の溶質が感じる静電ポテンシャルのゆらぎ」

溶媒効果はしばしば連続誘電体モデルで扱われる。例えばボルンモデルでは 線形応答とバルクの溶媒の誘電率の2つが仮定に基づいて溶媒和エネルギーが 計算される。この2つの仮定は溶質が水分子と同サイズであるとき(あるいは 分子スケールの構造をもつとき)どの程度妥当なのだろうか?積分方程式や シミュレーションを用いてこうした問題にアプローチ可能である。現在、 こうした問題について研究を進めているが、おそらくもっとも多くの人が 興味を持つであろう常温常圧の水の場合について結果が出たのでそれを紹介する。

参考文献:Y. Kubota, R. Akiyama, J. Phys. Chem. Lett. 2011, 2, 1588–1591
およびその参考文献。

2:「単純なモデルで考える定積過程と定圧過程:分子シミュレーションの課題と実験の課題。」

エンタルピーを決める為の熱測定の実験は定圧条件下で行われている場合が多い.従って、エントロピー項とそれ以外の項への自由エネルギーの分割データは定圧条件下に対するものである。一方で、シミュレーションは定積で行われる事も多い。また、実験の解釈もしばしば定積条件の下で行ったかの様に行われている。教科書には凝縮系の場合はそのように解釈して良いと書かれている事も多いが、それで良いのであろうか?まず見通しの良いシンプルな相互作用モデルを用いて上記の事情を解説する.そしてシンプルなモデルの結果と問題点に注目して凝縮系におけるその問題の重要性を考察する。

参考文献:秋山良、アンサンブル、2011年4月号
およびその参考文献(とくに[11]と[12])。